福島原発事故を巡る、政府・保安院・東京電力の大罪


 電源が通じ最悪の事態を脱するかと思いきや、想定外の高濃度の放射性物質が流れ出す。福島第1原発事故に関する政府や東電の発表

や指示は疑心暗鬼を招き、専門家からも非難の声があがる。知らないうちに破局に突き進んだ状況を回避できるか。

原発の事故を巡る政府や経済産業省原子力安全・保安院、東電の発表は、最悪の事態を常に国民から隠す。福島第1の設計に携わった

科学担当者も告白する。

 政府が公表したデータを見ると、1〜3号機の原子炉に海水を注入し続けているのにもかかわらず原子炉の水位はずっと低いまま。炉に注入

した水はパイプを通って隣のタービン建屋にたまったり、海へ流れ込んだり、大量に漏れしているとしか考えらない。政府はその危険性を隠そ

うとしているようにみえる。

 政府などの発表によると、三つの原子炉は津波の影響で電源が壊れ冷却機能が失われため、原子炉内の燃料の熱で冷却水が蒸発し水位

が下がった。燃料棒は水面から露出し、核分裂の生成物による崩壊熱で燃料棒が溶け出す「炉心溶融」が起きた。放射性物質を含んだ水蒸気

や水が環境中に放出されている。

 放射性物質を含んだ水が大量の漏れ状態では電源が復旧しても炉の水位は回復しないし、放射性物質の流出は止まらない。漏えい箇所を

発見し補修することが重要であるが、原発の建屋内は放射線が強く出ている場所があり作業には時間がかかる。温度や圧力が一定しない炉

の状況に2〜3年間、おびえ続けなければならないかもしれない。そのような可能性を国民に知らせないことに不信感を覚える。

 政府などは溶融と水漏れを早い段階で分かっていたのではないかと疑う。1号機で3月17日夕方から19日の間に原子炉内の圧力がゼロに

なった。炉からタービン建屋につながる配管が損傷、放射性物質を含んだ水蒸気が抜けたことが推測される。

放射能の強い原子炉に通じる配管の損傷を認めると、避難範囲を拡大させなければならない。地震のせいで配管が壊れた可能性が浮上す

れば、「想定外の津波」という言い訳が通用しなくなる。『十分な耐震能力がある』と言ってきた国や東電関係者の主張が根底から崩

れる。政府が『1号機の圧力が高くて危ない』『圧力の損傷の可能性がある』などと目前の現象だけを発表し続け全体像を示さなかったのは、

こうした思惑があったのではと疑う。

 原子炉周辺の状況を政府や東電は早くから認識していたのではないかと専門家も指摘する。

1号機と2号機のタービン建屋地下の水たまりは18日に判明しており、3号機の水たまりは従業員の被曝で24日に分かった。原子炉内の水

が漏れているのはその時点で明らかである。たまった水は、2号機は損傷した圧力抑制室から、1号機と3号機は損壊した原子炉とタービン建

屋の間の配管から漏れた可能性が高い。原子炉の水が漏れると高濃度の放射性物質が流出する。どの配管から漏れたと考えられるのかを

明らかにしないとかえって不安を煽る。

 ある専門家は、「事故発生直後に相次いだ水素爆発は、ベントを開けて早めに原子炉内の蒸気を排気すれば防げた。大気中に放射性物質

を撒くことにはなるが、今の状況を考えると踏み切るべきだ。専門家なら、今回の事故後に起きた事態の大半は早い段階で予想できたの

に決断が遅れた。事故の状況をどう発表するかについても迷いが感じられる。ある日は『原子炉は小康状態が続いている』と言ったのに、

数日後に『原子炉が壊れているかもしれない』と言うのは大罪である。」

 専門家が求めるのは政府の決断である。

「原子炉へ給水するための複数の系統の配管がある。配管や施設の機能に問題がなければ、格納容器の圧力抑制室を使い、原子炉内の水

の熱を海に逃がす方法がある。困難ならば、環境への影響を検討したうえで、原子炉から通じる配管の弁を開き、外部へ一気に水蒸気を逃

がして気圧を下げながら炉内に水を大量に注入する。これらの決断にはリスクが伴うので、大局を考えて踏み切れるかどうか」

 政府は28日、2号機のタービン建屋地下の水は「一時溶融した燃料と接触した格納容器内の水が流れた」との見解を示した。圧力、格納両

容器周辺の損傷を匂わせる微妙な表現だった。

 3号機は地震発生当時、プルトニウム・ウラン混合酸化物(MOX)燃料を使ったプルサーマル発電を行っている。このため、極めて毒性が強い

プルトニウム漏れを懸念する声が出ていた。プルトニウムの半減期は2万4000年。微小粒子を吸入すると、呼吸器のさまざまな場所に沈着す

る。排泄されずに長期間、肺に滞留すると発がんの原因となるとされている。東電が3号機のタービン建屋内の「たまり水」にプルトニウムが含ま

れているかを調べていなかったことが3月27日、分かった。

 東電広報部によると、平時から福島第1原発の土壌や水たまりにプルトニウムが含まれているかどうかを分析する設備はなく、第2原発にある

設備で対応しているという。27日になって枝野幸男官房長官は原発敷地内の土壌にプルトニウムが含まれていないか調査を始めたことを明ら

かにした。

 専門家は「プルトニウムは重い物質といっても細かい微粒子だ。風の力と向きによっては遠方まで飛ぶことがある。安心してよいとは言えな

い。敷地内の土壌や大気分析を急ぐべきである」

 2号機のタービン建屋で見つかった水に含まれる放射性物質の濃度を巡っても大混乱が起きた。東電は27日、「1立方センチ当たり29億ベ

クレルというヨウ素134の値は、通常運転中の原子炉内の水の1000万倍と超高濃度」と発表したものの、9時間半後の28日未明になって、放

射性物質はセシウム134で10万倍の濃度であると訂正した。

 ヨウ素134は半減期が53分と短く、停止から2週間以上が経過した原子炉にはほとんどない。それが高濃度で検出されるということは再臨界

状態の可能性がある重大な事態である。単なるミスではすまされない。専門家なら普通に考えて疑問を持つデータを何の解釈もなく発表して、国

民の不信を増大させた。

 どの放射性物質がどれくらい放出されているか、どの部分が壊れているかなどが開示されない。開示されれば、多くの科学者や技術者が予測

をし、適切な助言をすることができる。

 レベル5は、国際原子力事象評価尺度(INES)による「所外へのリスクを伴う事故」というのが現在の原子力安全・保安院の見解である。

 それに対し、「レベル6に相当するのではないか」という指摘が出ている。レベル6と言えば、1979年の米スリーマイル島原発事故に匹敵す

る。

 スリーマイル島原発事故は事故発生から3〜4時間で、露出した炉心に水を注ぐ再冠水という措置がとられた。それでも、冷却と放射

線量の監視を続け最終的な対策をとるまでに10年かかる一方、福島は事故から3週間以上たっても冷却できない。スリーマイルは

1基たが、4基同時多発事故の福島のケースは事態の収拾にさらに時間を要する可能性がある。

 86年のチェルノブイリ事故は黒鉛原子炉が爆発し、核分裂を制御できなかった。格納容器もなかったため、今回の約1000倍の放射線が

撒き散らされた。「チェルノブイリにはならない」という指摘は多い。

 しかし、チェルノブイリもスリーマイルも原子炉は1基である。福島のように4基すべてから放射性物質が放出されるとなると被曝者

数や急性障害が表れる人の数は比べ物にならないスケールになる。しかも、原発から200キロの距離に人口3000万人を擁する

巨大首都圏がある。4月に入っても、平常時上限を超える放射性物質が出続けていることをみても楽観視できない。

「ただちに人体に影響を与える数値ではありません」「安全性の観点からは屋内退避が必要だという状況は今も変わってない」

 このような枝野氏の話法は、国民のパニックを抑えたい思惑がありありだ。しかし、この説明は内部被曝の問題を意図的に無視しているとし

か思えないという専門家は多い。

 放射性物質が皮膚などに付着する外部被曝に対し、内部被曝は放射性物質を体内に取り込んで起きる。がんや白血病などの晩発性障害

に関してはこれ以下なら安全だという値がない。被曝の量に応じてリスクは高くなっていく。

専門家は、「内部被曝のほうが体に及ぼす悪影響ははるかに大きい。そもそも内部被曝は『ただちに』影響は出ない。体内で長い間放射能

を浴び続けるかたちになります。被曝は小さければ小さいほどいい。首都圏の人は距離があるから大丈夫というのは間違いリスクは

あるということをきっちり言うべきである。この言葉を使うことで絶妙な責任逃れをしているのだと思われる。」

 にもかかわらず、人命尊重より現状に合わせる動きがある。厚生労働省は、作業員の労働基準を緩和し、100ミリシーベルトだった年間被曝

線量の上限を250ミリシーベルトまで引き上げた。その直後の24日に作業員が被曝した。

 国際放射線防護委員会(ICRP)は、日本の現在の被曝線量限度(一般人で年1ミリシーベルト)を引き上げる検討を求めるよう勧告。岡田

幹事長は27日、農産物の出荷停止や摂取制限の目安となる放射性物質の暫定規制値について「少し厳格さを求めすぎている」と見直しを示唆

した。

 非常事態だからといって被曝線量限度を引き上げるのは、何のための基準値なのかということになる。低い被曝量でも発がん性や遺伝的

影響はまだ分からないことが多い。分からない領域は安全な基準をとるのが原則である。具体的根拠なしに引き上げるのは究極の人命軽視

である。

 被曝した作業員3人は28日、搬送先の放射線医学総合研究所を退院。経過観察を続ける。

「特に原発周辺の自治体の皆さんに、適切なタイミングで適切な情報が行っていなかった。本当に大変申し訳ない」

 枝野官房長官は27日、原発の周辺住民に対して情報開示が十分でなかったとの批判を受け、謝罪した。

 正しい情報かどうかは生命にかかわる。真実を明かさないで発表を流し続けているなら、その罪は取り返しがつかない大罪である。

 

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