危機状況が続く福島原発・放射能、東京まで波及危機的な事態が続いて、世界も注視する福島原発。 東京大学のある研究室が、ほかの研究室に出したメールにはこう書いてあった。「福島の原子力発電所から放射線が放出されています。 つきましては、各研究室においてご注意ください。特に換気扇やエアコンを停止し、窓を開けないよう宜しくお願いします」 約250キロ離れた福島原発から、風に乗って運ばれた放射能は、すでに都内のあちこちで検出されている。通常の約20倍の放射線量を観 測した場所もある。公共の水道水も乳児の基準値をこえた。首都圏に降り注いでいた放射線の影響に、東大・都民も脅えているのだ。 東大では「環境放射線対策プロジェクト」という緊急組織を発足させ、キャンパスがある東京・本郷と駒場、千葉・柏での1時間ごとの放射線量 の測定を実施している。メールを読んだ職員は、不安を募らせる。 「テレビで解説している専門家は『大丈夫だ、大丈夫だ』と言っているが、東京に放射能が漏れているのに『まだ大丈夫だ』と言うのは、どん な神経か」と非難する声も多い。 「臨界」が福島原発で起きる可能性もゼロではないと東京電力の担当者が認めた。 原発は核燃料が核分裂を起こすことでエネルギーを得ている。核分裂の連鎖反応が持続している状況を臨界という。だが、それは制御されたも とでは安全だが、想定外の偶発事が起きれば制御が不能となる場合もある。原子力事故で最も恐れられている現象である。 最悪の事態は、格納容器が爆発し、炉内の放射性物質が大量に飛び散る場合だ。 大地震を受け、6基ある東京電力福島第一原子力発電所の原子炉は次々に損壊。「起こるはずがない」とされていた「炉心溶融」が起きている 可能性が指摘され、格納容器の爆発も懸念されている。 政府や東電、そして原子力の多くの専門家たちは、「炉心溶融が起きたとしても、さすがに臨界だけは起きない」 しかし、その「臨界」の可能性までも現実のものとなった。 避難指示や屋内退避の指示を出されている原発周辺の住民に加え、放射能汚染への不安は首都圏など原発周辺以外の人たちにも広がる。 被害はどこまで予想されるか。 日本では、原発の重大事故を想定した人的な被害の公的なシミュレーションがない。 放射能が外部へ大量に放出される事故は、日本では「起きない」と政府も関係機関も電力会社も言い張ってきたからだ。 一番の心配は、原発から放出されている放射性物質がどこまで飛ぶのか、という点だ。 この想定を福島原発で考えるとどうなるだろうか。この場合、首都圏に向かう風向きは反対の北東風だ。 関東地方に吹く南西風と北東風では性質が異なる。北東風の場合、上空の気温の状態の違いなどにより南西風に比べて粒子が拡散され にくい特徴がある。 こうした違いによって福島原発から放出された放射能は、より高い濃度を保ったまま遠方まで到達する可能性があるという。 このような計算は、もちろん、天候などの条件でも大きく異なってくる。ただ、放射能が原子炉の爆発によって上空まで吹き上げられてから風 に流される場合は、さらに到達範囲が広がるという。 チェルノブイリ原発事故は、設計ミスに運転員の規則違反が重なって運転中に暴走し、爆発が起きた臨界事故である。半径30キロ圏内の住 民12万人が強制避難し、事故後の消火作業で被曝した約50人が死亡した。 事故による汚染地域は、原発の周辺だけに限られない。200〜300キロも離れた場所に、まるで飛び地のように、放射能による の汚染地域が大きく広がった。これはちょうど、福島原発から首都圏までに相当する距離だ。 チェルノブイリの汚染面積は14・5万平方キロに及んだ。日本でいえば本州の面積の6割に相当する。住民全員が移住させられた面積は 1万300平方キロ。日本の東京、神奈川、千葉の3都県を合わせた面積になる。 チェルノブイリでは事故から20年を機にまとめられた報告書によると、放射線被曝にともなう死者の数は、将来がんで亡くなる人も含めて 4千人にのぼる。 この人数は、現地のベラルーシ政府からも「過小すぎる」と抗議を受け、WHOは死者数を9千人としたほか、国際がん研究機関(IARC)は 1万6千人とするなど、より大きな数値が相次いで発表されている。 「チェルノブイリによるがんの死亡者数の見積もりは、全世界で2万〜6万人とするのが妥当なところ」と言われている。 「福島」がチェルノブイリ級の事故になると現時点で予想する専門家は少ないが、人口密度が高い日本で同じ規模の事故が起きれば、大きな 被害につながりかねない。事故炉は、鉛や粘土を上空から投下して放射性物質の放出を止め、コンクリートで囲い込んでいまに至っている。 放射線が、なぜ人体に影響を及ぼすかというと、高いエネルギーを持つ放射線が細胞にぶつかって壊すからだ。線量が少ないと、正常な細胞 がすぐに再生してくるが、量が多いと、回復力が追いつかずに障害が現れる。 毒性のあるプルトニウムが体内に取り込まれるとがんになる、と心配されているが、これは放射能の問題というより、金属中毒という化学毒 素の意味でだ。原発から放出されたとしても金属片として飛び散るので、重たいから何キロも飛ぶことはなく、周辺で落ちてしまう。浮遊物に付着 して微量のものが飛んできたとしても、たばこを吸ってがんになる可能性を実証するレベルと変わらない。問題は、ヨウ素である。 ヨウ素は体内に入ると、甲状腺に集まる性質があり、甲状腺がんの原因になる物質だ。 ヨウ素は揮発ガスとなって飛びやすいが、原子の個数が半分になるまでの半減期が8日と短い。臨界がとまった状況だったので、炉内の量 はすでにそんなに多くはなく心配の必要はないが、仮に臨界が起きたとすると事態は変わる。炉内で大量に作られ始めることになる。 がんになるには、ある程度の量が甲状腺に集まらなければならないが、甲状腺が小さくて、新陳代謝の激しい乳幼児だと集まりやすい。いま は考えにくいが、臨界事故になったとすれば、行政の指示のもと、避難所でヨウ素を体内に取り込みにくくするヨウ素剤を飲ませる事態になるか もしれない。 原発事故が起きたときの被害想定を記した、国の「原子力災害の防災指針」がある。原子力施設を周辺に持つ自治体は、これに基づいて防 災対策を立てている。 チェルノブイリ事故については、こう書かれている。 「この事故は日本の原子炉と安全設計の思想が異なり、固有の安全性が十分ではなかった原子炉施設で発生した事故である。我が国で同様 の事態になることは極めて考えがたい」 指針をつくっている原子力安全委員会の元委員長の一人は、 「チェルノブイリは運転中に起きた事故だったから、燃料からなにからすべてを吹き飛ばした。それと比べれば、いまの福島は最悪の事態でも なんでもない。ここまでの事故を想定していたかというと、想定なんてできるわけないでしょう。マグニチュード9の地震なんて日本で初めて。千年 に一度の地震が起きることを、だれが想像していたか、教えてくださいよ。こんなことが起きるのは、私も不思議だ。想定外のことなんだから、思 いがけないことが起きるのも当然でしょう」 「責任放棄」のようなコメントをしてる。 「起きない」はずの大事故が起きた福島第一原子力発電所の惨状。建屋の壁や屋根が吹き飛び、白煙が上がる。チェルノブイリの悪夢が再 来する恐怖は消えていない。 いったい何が起きているのか。電力会社や政府の説明は、何度も迷走した。「冷静に」「落ち着いて」と強調されるのに、そのための根拠が見 えない状態である。 操業を停止する工場も相次いだ。東京の歓楽街から、華やかな明かりが消えた。震災による経済の打撃に、電力不足が追い打ちをかけ、 計画停電が実施されている。病院・鉄道・交通信号機なども容赦なく停電される。この先、さらに放射能汚染という試練が待ち受けるのか。 (ヤフージャパンの資料より)
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