東日本大震災、首都圏に波及し大混乱


 国内観測史上最大のマグニチュード(M)9.0の地震の際、東京都内で観測された地震動は、超高層ビルから木造家屋や低層建築まで

すべてのタイプの建物を激しく揺らす特徴的なものだったことが3月12日、東京大地震研究所の解析で分かった。

 東京都文京区の同研究所に設置した地震計のデータを使い、建物の大きさや構造の違いでどれくらい揺れ方に違いがあるかを計算。周期が

7秒前後とゆっくりとした揺れの「長周期地震動」が都内で発生し、超高層ビルに被害が出た2004年の新潟県中越地震と比較した。

 それによると、東日本大震災では中越地震と同じ程度の大きさの揺れが、木造家屋を揺らす0・5秒前後から20秒以上という広い範囲の周期

で発生。ほとんどの建物を大きく揺らしたとの結果が出た。

同時に東京を除く首都圏では、当日、大規模停電が発生した。

 東日本大震災の揺れに加え、14日に始まった「計画停電」は首都圏の都市基盤の脆弱さを露呈させた。だが、マグニチュード7

クラスの首都直下地震が30年以内に起きる確率は70%。「その時」は確実に近づいている。

 福島第1原発3号機で水素爆発があった14日朝。東京電力の計画停電は、都市の「生命線」であるJRや地下鉄、私鉄各線の交通網を

ズタズタにしたため、「出勤難民」がターミナル駅からあふれた。

 ようやく乗り込んだ電車の中で人々が折り重なり、入場制限する駅は、いらだちを募らせた客が長い列を作る。

 混乱はどの路線でも起きたが、計画停電への対応は鉄道各社で分かれた。評判が最も悪かったのはJR東日本である。14日午前1時には

「山手線と中央線快速電車は運行し、それ以外は検討中」と発表していたが、午前4時には「7路線は運行する」と変更。始発ギリギリの4時すぎ

になって京浜東北線の一部区間や、東海道線の終日運休を決定した。結局、午後0時40分までに運転を再開した新幹線を含む11路線も、本

数は通常の2割だった。

 一方、西武鉄道は池袋―練馬高野台など3区間以外は終日運休の予定だったが、運行区間を順次増やした。東京メトロは正午時点で、全9

路線の運行本数を追加するなど比較的スムーズだった。

 JRは鉄道会社の中で唯一自前の発電所を持っており、首都圏の在来線は東京電力から供給を受けなくても運行できるはずだ。なのになぜこ

のような対応になったのか。

 JR東日本広報は「踏切や信号、駅施設は東京電力に頼っています。自前の電力で安全が担保できる路線を精査し、これらを総合的に判断

した結果です」と説明する。

 11日の地震発生時にも鉄道各社は一斉に運行をストップしたが、復旧までの間に不満の声が噴出したのもJRだった。都心では、地震発生後

いち早く運転を再開したのが東京メトロと都営の地下鉄。地上の私鉄各線が続き、最後がJRだった。

 阪神大震災で地下鉄が崩落したことをきっかけに新たな耐震基準が示され、全国の地下鉄事業者は一斉に耐震補強工事をした。つまり

、地下鉄はすべて阪神大震災と同程度の地震には耐えられるように補強されている。一方のJRも補強はしてるが、全体的に古いので、地震直

後の検査には時間がかかるのだろう。

 復旧が早いとはいえ、地上に比べ地下鉄で被災した場合は深刻である。どのように行動すればいいのか。

 電力が絶たれていなければ電車は次の駅まで運行することになっている。仮に駅間で止まっても必ず非常口があるから、誘導を受けて地上

へ出ることができる。地下にとどまっているのは危険である。駅ホームで万が一火災が発生した場合は煙が充満すると防火シャッターが閉まる

ので、なるべく早く地上に出た方がいい。

 勤務先や学校に人が集中していた金曜日の昼下がり、突然襲ったすさまじい揺れに首都圏の交通機能は全面的にマヒした。都心部から一斉

に帰宅を始めた群衆は日付が変わっても歩き続け、ホテルなどは帰宅難民があふれた。

余震も停電もなかった状態で、これだけのパニックを起こしたわけである。「本番」は生き埋めの人が出たり火災が発生したり、今回とは比較に

ならないほどの混乱が生じる。東京のように人口が密集する場所で起きる直下地震は、日本の災害の歴史上、ない。首都圏にいるすべての人

が被災者になることを認識しなければならない。

「本番」とは、首都圏直下地震のこと。国の中央防災会議の予測する報告書の中身は生々しい。

 死者1万1000人。全壊の家屋は85万棟。震度6〜7の激しい揺れで鉄道はストップし、道路は寸断、各地で火災が発生する。自宅に帰れな

い帰宅困難者(帰宅難民)は都内で約390万人、1都3県で約650万人。

また、多くの箇所で火災が発生すれば、都内の消防署だけでは対応できず、住民の初期消火など協力体制が必要であることも明らかにされた

。火災の延焼に拍車をかけるのにが、東京の道路の狭さで、地震で乗り捨てられた自動車が、近接する住宅火災で加熱・燃料爆発し、

道路を介して火災が次々と延焼することが、実験で証明された。道路が広ければ、火災の延焼をくい止められるが、逆の効果になるのである。

何よりも、東京の機能がマヒしても、国の体制が維持できるバックアップ体制が必要である。ある企業では、災害時に東京本社の

役員を大阪本社にヘリコプター移送する契約を結んでいる。

超高層ビルも例外ではなかった。20年前からビルの基礎・骨格に使用された高強度コンクリートが、火災に弱いことが判明した。

高強度コンクリートは、超高高層建築や大スパン建築の実現のために開発された、普通コンクリートよりも強度の高いコンクリートで硬化時

に内部の気泡を減少させて密度を高めているが、地震時などの火災熱により内部の水分が気化膨張して破裂する「爆裂」の危険

指摘され(通常のコンクリートは気泡が水分の逃げ道となる)、2000年頃よりポリプロピレンを混入して高温時に水分の逃げ道を生じさせる

対策が行われている。したがって、最近の対策がされていない高強度コンクリートを使用している超高層ビルの柱などは、地震火災

時の熱(約250度)で爆裂し、本体の重量を支えきれず、超高層ビルが崩壊するのである。通常、超高層ビルは火災が延焼する

可能性は低いが、地震時には延焼をくい止める間仕切り(部屋を区切る構造物)が崩壊し、延焼する可能性が高いのである。

 不安をあおるつもりはないが、地獄のような状態が広がることをシミュレーションしておくことは大切である。

そのシミュレーションより、どのようにすれば被害を最小限を抑えるか、首都機能・企業機能の分散など、早急の対策が必要である。

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