超高層ビルが林立するドバイ、経済は「砂上の楼閣」?


 ありあまるマネーは、ドバイの仰天する高さの超高層ビルなどの建造物や仰天プロジェクトの数々に消えてゆく。地上818メートル 建築中

の高層ビル「ブルジュ・ドバイ」は完成時の高さは、世界最高となる。「ドバイの塔」という意味だが、ドバイの象徴でもある。建設されるビル

は毎年2000棟、地震がないので、日本のような鉄骨造りではなく、鉄筋コンクリートが主流で、震度4に耐えられる程度の強度しかない。

ドバイのハイウエーを時速100キロで飛ばすと、すれ違う車はジャガーやポルシェといった欧州産の高級車が多い。

 砂漠の地に1990年代にできた新興住宅地では、、庭は緑に覆われていた。芝がしきつめられ、ナツメヤシやライム、バラが植えられて

いる。真夏は気温が50度近くになり、雨が少ないこの国では、海水を淡水化してまく。一日4、5回散水しないと枯れるため、人口1人あた

りの水の消費量は世界最大である。。

 日本では考えられないほど富豪が多い。

 UAEの1人あたり国民所得は、多数をしめる外国人労働者を除き、「ローカル」とよばれる生粋の自国民に限ると、1400万円程度

推定される。1人あたり国民所得が350万円程度の日本とは比べものにならないほど裕福である。

 隣のアブダビからわきあがる原油が彼らの生活を一変させた。原油収入が連邦政府はもとよりドバイなど連邦を構成する首長国の財政

を支え、税金はない。医療費や教育費は無料である。人口増が奨励され、「ローカル」が結婚すると、政府は100坪の土地と約210万円

のお祝い金をくれる。家を建てる際には建設資金を約2200万円も無利子で貸してくれる。以前はラクダに乗った砂漠の民の息子たちは

車に乗り、孫の代はプライベートジェット機で世界中を飛び回る。 「この10年間の変化は実に恐ろしいほどの激しさです」と住民も驚く。

 ドバイはいま空前の不動産ブームにわく。世界中のタワークレーンの4割がこの地に集まり、砂漠に個性的な外観の高層ビルが

猛スピードでできあがる。

 巨大な二つの不動産開発会社、ナキールとエマールがドバイを代表する。ナキールのパーム・ジュメイラとエマールのブルジュ・ドバイ

がドバイの発展を象徴する2大プロジェクトである。

 二つの会社はドバイ政府直系の不動産開発会社で、日本流にいえば公社・公団である。「海のナキール」「陸のエマール」と対比され、

ナキールはペルシャ湾をキャンバスに見立ててヤシの木や世界地図の形をした奇想天外のデザインの人工島を矢継ぎ早に造っている。

そしてエマールが手がけるのがブルジュ・ドバイという世界一の超高層ビルである。その姿は、個性的な超高層ビルが多いドバイの中でも

ひときわ目立っている。

 ドバイに「恐ろしいほど」の変化をもたらしたきっかけは、2001年の9・11米同時多発テロ事件だった。以来、在米資産の凍結を

おそれた周辺産油国のオイルマネーが、中東域内の投資先としてドバイに白羽の矢をたてた。

 それに原油価格の高騰が弾みをつけた。1バレルあたり20〜30ドル程度だったのが一時140ドル台に達し、もてあますほどの資金を

有するようになった。サウジアラビアやUAEなどペルシャ湾岸6カ国の年間の余裕資金といえる経常収支黒字額は2006年の時点で

26兆円を超えた。自国民にばらまいてもなおあり余る資金は、一部が国家ファンドとして運用され、一部がドバイ投資へ向かった。

 巨大プロジェクトはまだまだ続く。全長70キロという世界一の運河を造るドバイ・ウオーター・カナル。6本の滑走路をもつ新空港。ナキー

ルはエマールに対抗するかのように、ブルジュ・ドバイをしのぐ1400メートル級の世界一の超高層ビルを建てる計画である。

 UAE全体の発表済みプロジェクトの累計投資額は推定約55兆円あり、このうち83%を建設関連が占める。1年間に発注される

金額は推定約5兆円に達し、これは日本政府の年間の公共事業費(2008年度約6兆7000億円)の7割強に相当する。日本の小さな県

ほどの広さのドバイに、その多くが注ぎ込まれる。

 「内容は言えませんが、我々の感覚では信じられないようなプロジェクトの建設の提案を内々に受けています」日系大手ゼネコンの現地

幹部はコメントする。

 ドバイの建設業者数は03年の3000社から06年には8000社超へ急増した。官僚が副業として営む例も多い。


 ドバイの多くの人たちが、不動産投資を経験してるが、急騰する不動産価格の転売目的である。

 急騰する不動産価格のからくりは、聞き慣れない用語によって理解できる。「フリーホールド」「オフプラン」「プリセールス」という三つの

言葉である。

 フリーホールドとは、それまで禁じられていた外国人の不動産所有の解禁のことである。

 2002年に解禁されると、ドバイに居住資格を得たい周辺国出身者が買い始めた。さらにロシアやインドなど新興の「BRICS富豪」が

別荘用や投資用に買い求め、それに好景気にわく欧州人も加わった。突如巨大な買い手が出現した。

 もう一つはオフプランという独特な商慣習だった。

 日本では完成したマンションや戸建て住宅の現物を見て不動産を購入するのが一般的だが、ドバイでは着工前に売りにだされる。つまり

、まだビルが建っていない砂漠の地でも、そこにビルが建つという前提のもとで各戸が販売される。不動産開発会社からすると、着工前の

青写真段階で入金されるため、銀行借り入れなど外部資金に依存しきらないで済む。借金を負わずに次々と開発計画をぶち上げることが

できる。

 このときに不動産開発会社はプリセールスと称して、地元の有力者や優良顧客に対して正式発売前に割り当て販売をする。その後に

正式発表し、事前割り当てよりも高い値段で売る。当然、発表前に割り当てられた人は、発表後に高い値段で転売できる。値上がり益の

享受が確実な未公開株をひそかに政治家らに割り当てるのに似た構図である。

 地元の銀行は投機目的の不動産購入に資金を平然と融資する。UAE通貨のディルハムはドルと連動しているため、米国の利下げに

同調してこの1年弱の間に5%から2%に利下げしてきた。ただでさえ過熱気味の経済は金融緩和によって、よけいにバブル化した。

 こうしたドバイ特有の不動産事情を背景に躍進してきたのが、「中東最大の民間不動産開発会社」を自称するダマックである。2002年の

フリーホールド解禁以来、ドバイは過熱してきた。

 ダマックは、これまでに世界116カ国の富裕層ら1万8000人にドバイの不動産を売ってきた。60%強が投資目的で、居住目的の

購入者は4割に満たない。世界中の人たちが買うなかで、日本人の購入者は2、3人しかいない。

 バブルの懸念を否定し、担当者は 「市場は持続的に成長しており、回転も非常にいい。毎月3万人もの外国人の労働許可がおり、その

うちの8000〜9000人が住宅を必要とします。2012年までは需要が供給を上回り続けるでしょう」

 確かに人口はこの約10年で2倍の135万人(2006年)に増えた。ドバイから飛行機で片道4時間の範囲内に17億人が住む。ねらうの

はその範囲に出現した新興の資産家と仕事を求めに来る人たちである。だから人口流入は当分やみそうにない。

 圧倒的な売り手市場で、ダマックはまるでゲームをあおるような販売手法をとっている。たとえば昨年冬のマンション商戦では、契約した

人全員にBMWの新車を1台プレゼントした。さらに契約者を対象に毎週、ランボルギーニやフェラーリなど5台の高級車が当たる抽選を

実施。そのうえ冬の商戦期間中の購入者全員の中からプライベートジェット1機とプライベートアイランド一つが当たる抽選もおこなった。

うまくゆけばマンションを1戸買うと、BMW、ランボルギーニにジェット機と無人島がついてくる。

 かくして不動産価格は毎月10%ずつ高くなる。いくらUAEのインフレ率が8〜10%と高い水準で推移してきたとはいえ、1年で2倍になる

不動産価格の上昇は尋常ではない。

 いまやドバイの不動産価格はスイスのジュネーブ並みで、外国人の労働者は収入の30%以上を家賃につぎこんでいます。

 この問題は、買っている人の大半が投機目的で、しかも不動産会社自身が投機をあおっている。建設計画を発表して完成するまでの

間に少なくとも4、5回、多ければ20回も転売されている。 銀行が相手の返済能力を無視して貸していることに問題がある。

 ある専門家は、「いま必要なのは銀行や企業の監査、規制の強化、それと透明性の確立です。まだ若い国なので、大きなことをやってい

る割には精神面では子供なのです」と指摘する。

 ドバイのほとんどの企業が同族経営の非公開会社で、負債額はおろか売上高や利益水準すら明らかにしない。ごく少数の上場企業を

除けば、財務諸表の分析を通じた経営実態の把握は不可能に近い。不動産価格が上がり続ける限り問題は表面化しないが、下落すると

雪だるま式に不良債権がふくらむのは日本や米国の経験からもあきらかだ。

 さらに、専門家は「ドバイには、むこう5〜10年の戦略シナリオはあっても、リスク対応策がないのです。経済には必ず景気後退がある

ことを知っておくべきです」

 建設ラッシュが続くドバイでは2012年に400万人が住むようになる。人口は外国人労働者を含めて135万人だが、このうち「ローカル」と

言われる生粋ドバイ人は20万人しかいない。つまり400万人が居住する場合、「ローカル」は全体のわずか5%の構成比になってしまう。

 「まさにそれこそが悪夢です。私たちローカルの間では、開発のスピードを落とし、一回立ち止まって考えるべき時期に来ているという声が

多いのです」と多くの住民が懸念する。

 ドバイは、もてあますマネーを最近、他の途上国や新興国への投資に回そうとしている。アフリカのジブチの港湾設備やスーダンの物流

拠点、ロシアの不動産開発に巨額マネーを振り向ける。世界にも大きな影響を与えようとしている。

 ドバイ経済は石油で懐が豊かになったアラブの大富豪たちと、ロシアやインドなどBRICSの富豪でなりたっている。地元の投資会社に

よると、「ウルトラハイ」とよばれる超富裕層は毎年15%の割合で増え、増え方は中国より多い。したたかな欧州人たちはそこに商機を

見いだし、個人資産の運用受託や高級ブランド品を売りつけることで、上前をはねていく。

 ドバイに来ると、新興国の登場によって地球の主役が底流で変わりつつあることを実感する。この地からは国際経済の主役だった米国

と日本の姿が見えない。ドバイの不動産バブルはいつかしぼむかもしれない。しかし、世界経済の主役の顔ぶれは着実に変わっていく

ようである。


ドバイのムハンマド・ビンラシド・アルマクトゥーム現首長(第10代首長)は「砂漠のCEO」と呼ばれる。王様というよりは「株式会社ドバイ」

の経営者である。

 ドバイはムハンマド現首長の父の故ラシド首長(第8代首長)の代に、アブダビなどとアラブ首長国連邦を構成して独立を果たした。ラシド

首長時代にドバイも原油を掘り当てたが、産出量は隣のアブダビと比べるとずっと少ない。そこで巨大な経済特区(ジュベル・アリ自由貿易

特区)を港湾に隣接して造った。

 これが成功して、いまではその特区にソニーやサムスンなど世界中から6400社が入居する。以来、ドバイは他の中東諸国と一線を画

す「ビジネス国家」の道を歩むようになる。体調を崩したラシド首長のもとでムハンマド現首長(当時皇太子)が事実上の執政を始めて以降、

ドバイの変貌は加速していった。

 周辺国のリーダーたちは保守的で怠惰にすぎた。国民に医療や教育を提供しても、国をいま以上に良くしようという意識がない。

それに比べては同首長ビジネス感覚が優れている。

 原油収入が潤沢ではないドバイは、大プロジェクトを打ち上げては周辺産油国の国家ファンドやBRICs諸国からカネを集めている。

ドバイという国家自身が資金調達力にたけた一種の「ファンド」のような存在である。

 バブル崩壊の懸念がよぎるが、ここはトップダウンなので、いつまでも決断できずに先送りしてきた日本のようにはならないかもしれ

ない。

(ブルジュ・ドバイの完成構想)

 

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