原油高による空前の好景気で、世界一の超高層ビル(810m)など、建設ラッシュが続くアラブ首長国連邦(UAE)のドバイ首長国で、アジアから
の出稼ぎ労働者による暴動が相次いでいる。その過酷な労働条件から「奴隷扱い」と国際的な批判を浴びるが、改善されていない。背景に、
人口の8割にまで膨らんだ外国人への強い警戒感があるとメディアはいう。
世界一の高さ・810mの超高層ビル「ブルジュドバイ」と周辺の十数棟の超高層ビル群が建設中である。周辺の日中は気温が45度、湿度は
80%を超える中、インドやパキスタンなどから来た数万人が月給2万〜5万円、週休1日で働き、サービス残業が恒常化している。
数百人に1台しかないタイムカードの順番待ちでも遅刻とみなされ減給されるなど、そんな待遇への不満が3月末に爆発した。
「指導者風の数人が先導し、2千人以上が何か叫びながら事務所の窓や機材を壊して回った」といわれる。ストは3日続き、会社側が改善を約束
してようやく収束したという。
「政府の指導で1部屋4人まで」のはずが、8人も詰め込まれるという。それでも耐えるのは、母国での月給がさらにここの20%ぐらいしかない
人も多い。あるインド人は「チャンスあふれる夢の国と聞いてきた。でも帰国したら、絶対にだれにも勧めない。インドでは低賃金でも人間扱い
されるが、ここでは奴隷だ」という。
「アジア人労働者を人間以下に扱っている。低賃金と渡航費の借金で、債務奴隷状態だ」。今年3月、米人権団体ヒューマンライツウオッチは
建設労働者についての報告書でUAEを強く非難し、米国と欧州連合(EU)に改善まで自由貿易協定の交渉延期を求めた。
UAE側は即座に、労働者の団結権、団体交渉権を認める用意があると声明。7、8月の日中、最も暑い数時間は屋外労働を避けるよう通達する
など「配慮」を示した。
しかし、UAEには最低賃金制がない。労働省のミルザ法制局長は「数年前から検討している」と言うが、「賃金は市場が決めるもの。労働者は
承知で来ている。いやなら帰ればいい」との声が強く、実現していない。
改善の動きが鈍い背景にいびつな人口構成がある。国連資料によると、人口400万人(2004年)のうちアラブ首長国(UAE)国民は約72万人
で2割に満たず、残る約8割、328万人が外国人である。アジアの国が多く、2002年の推計で、最も多いのはインド人で120万人、次いでパキス
タン人の45万人である。
肉体労働だけでなく行政や教育、文化、経済のあらゆる分野でも外国人に頼る。
なかでも、数十万人規模で押し寄せるアジア人の単純労働者は「時限爆弾」と見られていた。
ドバイの建設現場で働くアジア人労働者は30万人とされる。ヒューマンライツウオッチの調査では04年の建設現場での事故死は880人である。
日本の建設業では考えられない。また、労働者の質・意欲の低下は超高層ビル・本体の質の低下へと波及する。超高層ビルのデザインは一級品
であるが、本体・内装の質の低下は避けられない。日本の建設業では、常識である安全管理など、当然、実施されていないであろう。
地元紙によると、04年にすでにストが少なくとも24回は起きていた。今年3月と4月には相次いで暴動に発展し、別の現場で同調ストが起きるなど
拡大の様相を見せる。建設機材などの被害額は100万ドル(1億1500万円)を超えているという。
「長居させないため、意図的に劣悪な労働環境を維持する政策が取られてきた」と地元メディアは指摘する。それが過熱する建設ブームに伴う
労働者の急増で、制御できない状態である。
いびつな人口構成は多くの湾岸諸国に共通する悩みになりつつある。国連資料によると、湾岸協力会議(GCC)6カ国で人口に占める外国人の
割合はUAEの81%に次いでカタールが70%、クウェート64%と6割を超える。安価で都合よく使える外国人労働者の魅力と「外国人にのみ込
まれる恐怖」のはざまで、出稼ぎ労働者は厳しい生活を強いられる。
アラブ首長国連邦(UAE)は国土の大部分が砂漠で、海岸沿いに中心都市を発展させたアブダビ、ドバイ、シャルジャ、アジュマン、ウムアルカイ
ワイン、ラスアルハイマ、フジャイラの七つの首長国で構成される。原油確認埋蔵量は世界5位である。1人当たりの国内総生産(GDP)は2万
4951ドル(05年)である。ドバイは80年代から多産業化を進め、GDPの90%を石油化学などの製造業、金融、流通、観光といった石油以外の
産業で稼ぐ。ドバイ空港の拡張や超高層ビル建設など都市・観光開発が盛んである。
(建設中の世界一の超高層ビル・810m)
(完成予想図)