2004年3月26日、昨年4月にオープンし平日でも数万人もの人々が訪れるという東京の超高層ビル「六本木
ヒルズ」で、6歳の男児が同ビルの自動回転ドアとドアの枠に挟まれ死亡するという痛ましい事故が発生した。
最近、自動回転ドアはスライドドアのように開放時に外気を建物内へ直接入れることがないうえに、外気や風
の影響を受けにくく冷暖房効率も良く、省エネ効果が高いとされていることから、同種ドアを設置するビルも増
加していた。調査では全国で294施設466台に達していることがわかった.
しかし、この事故を契機に国道交通省が行った調査結果では、自動回転ドアには不具合箇所があり事故が
多く」発生していた。
自動回転ドアを利用した人の中には、ドアの中へ入ろうとする際,タイミングが合わなくて躊躇したり、中へ入る
と後から追われるような気がしたり、早く進めば前の扉に衝突するような恐怖心を覚えたなどという経験のあ
る人も多い。
事故概要
(1)発生日時 平成16年3月26日(金)
午前11時30分ごろ
(2)場所 東京都港区六本木6六本木ヒルズ
森タワー・2階正面入口 ・自動回転ドア
(3)死者1名 6歳男
(4)死因 頭部顔面圧迫による脳内損傷
(5)事故概要
死者の6歳男児は、3月22日から母親(38歳)とともに東京都に滞在していて、26日母親と2人で六本木ヒルズに
観光のために立ち寄り、森タワーへ入ろうとして2階正面入口の自動回転ドアに小走りで進入し、同ドアとドア
の枠に頭を挟まれた。
同男児が挟まれたのを後から来た母親が気づき,近くにいた人とドアを強く引いて逆回転させ助け出したが既
に意識はなかった。児童は病院へ運ばれたが2時問後に死亡した。
森ビルでは,以前にも同種回転ドアによる負傷事故が起きていたため、「自動回転ドアに子供の手を引いて入
るよう」ステッカーを貼って呼びかけたり、回転ドアと枠のすき間に子供が入り込まないようドアの手前にテープ
を張ってポールを設置したりして安全策を講じていたが同ビルがビデオで確認したところ児童はポールの脇を
すり抜けていたことがわかった。
なお,同男児の頭部にかかった負荷は800kgと推定される。
自動回転ドアの構造及び安全装置
・事故を起こした大型回転ドアの仕様
(1)形式「シノレス」型
三和シャッター工業製
(2)外形4.8m
(3)高さ約4.2m
(4)重量1500kg(大型回転ドア)2700kgという説もある。
(5)回転数2.8回転/分ただし人がドア内部にいる場合は3.2回転/分(O.8m/秒)
(6)回転方向反時計回り
(7)収容人員各7人・2か所に計14人
(8)安全装置
「挟まれ防止」や「巻き込まれ防止」のため内外各6か所計12か所にセンサーが設置されていて作動するとド
アが自動停止する構造となっている。挟み込み防止センサーは、回転するドアとドアの枠に人や手を挟まないよ
う高さ2.4mの天井部分に設置され真下に赤外線を出すタイプであった。
なお、ドア製造会杜によると、障害物を感知すればドアは回転を停止する仕組みとなっているが、センサーが
作動してもドアにショックを与えないため急停止せず約25cm動いて停止するよう設計されているいう。.
本事故後の検証結果によると、センサーが作動してもドアは即停止せず20数センチ動いて止まること、事故
当時センサーの故障はなかったことがわかった。また、このタイプは、外部に向かって直線状になると空気の
流通を許すことになるため,空気の流通を止めるための処置を講じている。
事故後の防止対策
(1)森ビルの対策
@自動回転ドアに子供の手を引いて入るようステッカーを貼って呼びかけ
A回転ドアと枠のすき間に子供が入り込まないよう、ドアの手前にテープを張ってポールを設置
六本木ヒルズ森タワー事故後の全国の対応
(1)使用中止206台
(2)回転中止132台
(3)使用中128台 使用中については,点検を実施し,警備員を配置したり,貼り紙をしたり,カラーコーンを置く
などして安全措置を講じて使用している.
なお、森ビルでは 、都内の回転ドアをすべて廃止することを決め撤去することになった.
死亡事故が発生するに至った要因
今回の六本木ヒルズ森タワーの事故は,以下のような要因が重なり死亡事故に至ったものと考えられる。
(1)事例の対応が十分になされていなかった
六本木ヒルズでは,過去に32件もの事故が発生していた。また、森ビルでは,2003年12月7日に6歳女児が頭と
右ひざをドアに挟まれる事故が発生した警備員らが助け出そうとしてもドアが動かず4分後にようやく救出され
時には,女児の黒のタートルネックは血まみれで救急車で病院へ搬送されたが右耳の後ろを11針縫ったと
いう。女児の父親がドアに欠陥があるのではと森ビルに連絡すると担当者が訪れた。防犯ビデオの画像は、
30pのすき問に飛び込む女児の姿が映っていた。
しかし担当者は、センサーで止まる仕組みだが、瞬時にぴたっと止まりません.隙間に子供が入るとは想像もし
ていませんでした。このような事故は今回が初めてです.」と謝罪し、「ドアに飛び込み防止用のポールを設置し
ました.今後は十分注意致します」と約束したという.
今回の事故は、この事故事例とほぼ同じ事故であることから、過去の同ビルで発生した回転ドアにおける事故
が多発していたにもかかわらず十分な原因究明や事故 対応がなされていなくて,事故防止対策が十分に検討
されなかったことが、今回の死亡事故を引き起こしたものと考えられる。
(2)センサーの感知距離の変更
森ビルでは、2003年12月7日に6歳児童がドアに挟まれ病院に搬送されたのを受けて自動回転ドアヘの走り
込み防止用にベルトを張ったポールをドア前に設置したが、ビル風で揺れたベルトにセンサーが反応しドアが
停止する誤作動が頻発した。この誤作動を受けて、12月下旬に森タワーの管理会杜からメーカーに「ドアの停
止が多い。何とかならないか」と要請があった。メーカーはビル風に揺れるベルトが誤作動の原因と判断し、
杜内基準では地上80cmの高さまで赤外線センサーが人等を感知可能とすることになっていたが、死角が大
きくなるにもかかわらず、赤外線の到達距離を40p縮め、天井から地上120cmまでしか感知しないよう
に設定変更したという。
また、ドア枠には床面から15pの位置に水平に赤外線を出すセンサーが設置されていた.この結果、今回の
事故の男児は床面近くに設置されている水平のセンサーを跨いで入り,上部のセンサーは児童の身長117cm
の高さまで感知できなかったものと考えられる。
(3)回転ドアの速度を速く設定
三和シャッター工業によると,同機種の標準的な回転速度は2.8回転/分であるが,通行量に合わせて最高3.2回
転/分まで速度を上げることが可能であるという。
しかし,森ビルでは,開業時から最速の3.2回転/分に設定していて,事故が起きても遅く設定しなかった。
回転ドアによる事故防止対策
(1)事例研究の重要性
全国各地で回転ドアの事故が多数発生していたにもかかわらず、その事故事例が情報として発信・収集されず
情報の共有化がなされていなかった。また,回転ドアを設置しているビルでは,事故事例が教訓として生かされ
ていなかったことが,今回の事故につながったものと考えられる。やはり、都合の悪いことは隠すというこの
企業の体質が根底にあったのだろう。
各地で起きていた同種事故内容についての事例を情報として感知し得なかったとすれば、情報発信・収集に問
題があるのではないだろうか。建築関係の学会,ビルやビル管理の研修会・講習会などが各地で行われている
ことから、情報発信や情報交換の意思があれば情報の共有ができて事故防止対策にっなげることができたは
ずである。先にあげた事故事例からも回転ドアには多くの危険要素が存在し、「 この回転ドアは欠陥のある
設備」という結論はすぐに判明したはずだ。
(2)安全工学の認識
今回の事故は、安全工学の認識不足というのが、根底にある。設備に死角があるというのが、一番の問題
点である。設備を制御する場合、「フェイルプルーフ」という重要な仕組みがある。うっかりしたミスを犯しても、
設備はそれをカバーする。例えば、プレスという圧縮する工作機は、間違っても手を挾まないよう両手で押しボ
タンを押して動作するよう工夫がしてある。押しボタンが1つの場合、ミスで片手を挟む場合があるからである
。また、「フェイルセーフ」という仕組みがある。設備が故障しても安全な方向に動作する。例えば、鉄道の踏
み切りは、故障した場合、事故を防ぐために絶対に開かないよう工夫がされている。何度も繰り返すが、設備
の動作に死角があるというのは、安全工学上、論外である。
「ヒューマンエラー」とう言葉があるように、人間はミスを犯しやすい。まして、子供は常識を超えた行動をする
場合があるということを認識すべきである。事故事例においても、「ハインリッヒの法則」の法則というものが
ある。1件の重大事故の裏には、29件の事故があり、300件の未遂の事故があるという。
今後の対策
回転ドアの死亡事故を受けて国土交通省は、経済産業省と共同で再発防止に向けたガイドライン作成に入
る方針を明らかにした。このガイドラインは、4月初旬にも検討会を設け 、6月中旬の作成を目指すとされていて、
ビル管理者らが守らなければならない基準が明確化されるという。
ガイドラインが早く作成され,製造業者や設置事業者が、ガイドラインに従って作業を進められ 、一刻も早く安全
なドアが運用されるよう期待されている。
(備考)
六本木ヒルズ
17年の歳月をかけて再開発実施
2003年4月オープン
地権者数約400
毎日数万人以上が訪れるという東京の新名所
六本木ヒルズには大型の回転ドアが9基 ・小型回転ドア40基設置されている 。
(現在は回転ドアは撤去中で、スライド・ドアに変更する。)